藍の焦げあと openersのサイトの原稿です。

みどりの触知学
藍の焦げあと

◯藍の花。

 育てているのは蓼藍で、徳島などが産地として有名です。この時期に咲く薄いピンクと白が混じった米粒のような花は、少女のような慎ましさを持っています。
 このあと秋から冬にかけて、葉は黄色く染まり、クリスマスの頃になると藍にひそむ赤が湿潤してきて、茎が真っ赤になります。真っ赤と言っても紺色から赤が生まれたような風情の色です。その頃には種も熟します。

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十月。花が咲き始めた。(赤坂氷川神社の藍畑にて)
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八月の藍の葉。

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◯この夏も。

 合わせて4、5回、畑のある「世田谷ものづくり学校」と「赤坂氷川神社」にてワークショップを行いました。僕たちがやっているのは藍の「生葉染め」です。夏の暑い時期に、大きくなった藍の葉を摘み、葉をもぎり、水を適量加えてミキサーでジュースにします。次にそれを濾し布で絞ります。絞ると「とろり」とした感触があり、この柔らかい泥のような触感から、何か大事なものをいただいているんだなぁと実感します。
 そうやってできた染液に絹や麻の布を浸し、染めて行きます。みどりいろの、青汁そのもののような液からあげて、天日の下でぱたぱたとはためかせると、みるみる色が変わっていきます。布地によって色は様々なのですが、庭師さんが着るような藍の色ではなく、特に絹の場合には、透き通った瑞々しい青が現れます。この充溢する色の変化。一口に青と言っても移ろいの中に無限の色があるということを目の当たりにすることができます。


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葉を摘む。生葉染めのため。


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染液をつくる。


 子ども達も大人達も、そうした劇的な色の変化を楽しんでいますが、自分の身体を通して、植物の不思議や、人が植物から「色彩」と言う秘密を得るためにどうしてきたか、その知恵にも触れることになるのです。「彩」という漢字も植物から色を採るという意味の象形文字なのでした。


◯瑞々しい旬の青

 藍の葉からこの色をいただくには「旬」があり、花が咲いてしまうと良い青は採れなくなります。色が藍の中で充実している時期に摘んで乾燥させた葉を発酵させ堆肥のようにしたものを「すくも」といいますが、それを再び灰や酒やふすまを投入し藍を立てることで色素を抽出する方法は、藍染めに使う植物の中ではインディゴ成分の少ない蓼藍から、より濃い青を抽出するためでした。また、季節に関わらず染めるためにも生まれた技術でもありました。やがて江戸時代には藍の生産が奨励されたこともあり、阿波を中心に一大産業になっていきます。一方、生で染める場合には瑞々しく緑濃い季節が色も一番きれいなのです。 


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 やや青く光った葉は、乾燥させたり、傷がつくとそこから青が滲みます。青をその中に持っていて、今頃は写真のように薄いピンクと白が花となって現れていますが、もう少しすると葉には黄色がじわっと浮かび、落葉する頃には茎にぐっと赤が浮かび上がる。それも青がひそんだとてもつよい赤なのです。こうした色の移り変わりを見ると、どこからが青でどこからが赤なのか、そんな線引きが馬鹿らしくなってきます。
 種を作ると一年草のこの草からは命が離れます。「枯れる」は「離(か)れる」でもあります。そして藍のからだは静かに新しい命をはぐくむ場になります。

◯「あを」と「しろ」

 「藍」は「青」でもあるわけですが、「あを」は「しろ」に対することばでした。陰陽五行では、青は東、春の色とされています。「青春」ともいい、東を守る神獸は「青龍」です。その反対は白で西、秋の色です。こちらには「白秋」という言葉があり、「白虎」が西を守ります。実は「青」も「白」もいわゆる「色」の「青」「白」ではなく、もっと幅広い概念だったようです。もう一対は北の「黒」と南の「赤」ですが、こちらは「暗い」と「明るい」をもととした色彩の観念です。 
 「白」は余白の「しろ」で、光が色としてあらわれる以外の色、つまり光そのものであったわけです。それに対して「あを」は「しろ」以外の色をさす幅広い概念だったようです。「淡い」の「あわ」とか、「藍」という漢字の「監」も「水鏡」という意味があるくらいですから、水の色、海の色なども関係あるのでしょう。光そのものの透明な色に対して、少し色づいたものをまとめて「あを」と呼んでいたのだと思います。「青色」「赤色」「黄色」というと、絵の具や色鉛筆の「色」をパッと思い浮かべますが、もっともっと豊穣な奥深い世界であるはず。植物と人の間を探って知りたいと思っていろいろやっていると、こんな風に少しずつ植物はその秘密を明かしてくれる。そういったことが度々おこるのです。

◯青の記憶に触知する

 仲秋の名月も過ぎ、秋も深まっています。
 白露ともいい、秋の虫の声に、月もますます冴えてきます。
 こんな時期に瑞々しい青の季節をあえて思い返してみると、青空にはためく水色の布と、真っ青に染まった手と、藍の香ばしい匂いが甦ってきました。

 そうか。藍の生葉染めを続けてきたら、染まった青い皮膚に青い爪、苦みを含んだ炒り立てのお茶のような香り、絞った時の生暖かさ、葉を摘んだ時の様々な感情などなど「身体」をつかうことで「身体」が記憶することになるのですね。何かをきっかけにその場所の記憶とともに甦って来る「青い焦げあと」のような。

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染めた布 赤坂氷川神社の藍畑で