林雅之さんの写真集"LIVING FLOWERS"に寄稿

「歌い咲く」


林さんの撮った花
をなぞっていたら、
花びらの底にみつけた。


 茎の一本道を晴れやかに歩いて行った。
 ゆるやかな花のうなじを辿って、
 花弁の内側を滑り降りていくと、
 そこにはみどりの泉が在った。

 花びらの、やわらかな襞をかきわけて、
 触角のような雄蘂を振ると
 黄色い花粉が舞いあがって、
 それは淡雪のように降った。


林さんの撮った花
の奥にひそみ、
沖から寄せる波音。


 泉のほとりから見上げたら、
 すっくと立った柱頭の先は、
 あおい空にじわっと光って、蜜が滲んでいるようだ。
 みどりいろの底は、ねむくなる。

 胚のふくらみにもたれて
 うとうとと
 なにかの音連れに目が覚めたら
 オーロラは歌っていた。


  雌蘂のねもとは、地球のおさない記憶がたゆたう場所。
  ここから千もの色があふれ、千歳(せんざい)の音が立ち上がる。
  ひとつひとつの花の台(うてな)が、
  この色だったなんて。

  生きているその花々の真ん中で奇蹟はいつも、
  いつも咲(わら)っていて、
  それは満ちて儚く、咲いて果て、
  カラフルでマカブル、
  ひたぶるに自由なのだ。


林さんの撮った花
にからまっていたら、
空だって飛べる気がした。
そう、蜜の力で、
花粉を背負って。

 塚田有一

2012_living.jpg
(装丁を手掛けた櫻井久さんのサイトより。)

イデーショップ自由が丘店で開催された林雅之写真展"living flowers"では
花の写真のキャプションを書かせていただきました。

lving flowers
http://www.idee.co.jp/company/press_release/201204/

*バラ

 Rosa(ローザ)は、ギリシャ語の「rhodon(バラ)」やケルト語の「rhodd(赤色)」が語源とされる。
アフロディーテやヴィーナスと結びつけられ、大地が生んだ最も美しいものとして祝福されてきた。
サッフォーは「花の女王」と歌い、ダンテは薔薇を神秘主義のシンボルとし、青い薔薇はロマン派の象徴となった。
「美しいものには棘がある」。その棘も忘れてはならない。
           
*カーネーション

 Dianthus(ダイアンサス)は、ギリシャ語で”ジュピターの花”の意味となる。
英名では当初pinkとも呼ばれ、花の名が色の名となった。秋の七草のひとつ「河原撫子」のピンクは青みがかって、うつくしい。
「カーネーション」の語源は「花冠」とされる。つよい香りの花冠をつけておくと酒に酔わないとされた。
日本ではかつて「オランダ石竹」とか、香りのよいことから「麝香撫子」などと呼ばれた。
芥川龍之介が《朝のパンを石竹の花といっしょに食はう》と洒落ている。
        
*ポピー
 
 Papaverは、ラテン語の「papa(幼児に与えるお粥(かゆ)」が語源とされる。ケシ属の乳汁に催眠作用があるため、乳汁を粥に混ぜて子供を寝かしつけたのだとか。少しであればよいくすりとなる。「慰め」「眠り」「忘却」などの花言葉がある。


*シンビジウム

 シンビジウムの名は「舟のかたち」というギリシア語がもと。蘭は最も遅く地上に出現した被子植物とされ、虫媒花として効率のよい花のかたちをしている。そういえば、花弁も芳香も少し植物らしくない肉感を持っている。

*パンジー

 「三色すみれ」。明治時代にはこの花の形が蝶のとんでいる様に似ているということで、「遊蝶花」と呼ばれた。フランスでは三色の花がもの思いに沈んでいる人の顔に似ているとされ、「パンセ」と呼ばれた。ヴィオラは「すみれ」とヴァイオレット、つまり紫を表す。

*チューリップ

 ペルシャの古語の「tulipan(頭巾;ターバン)」が語源といわれている。
この花が西ヨーロッパに入ってからというもの、園芸熱に火がついたとされ、
オランダでは「チューリップ狂時代」と呼ばれるほどの沸騰した時代があった。

*ラナンキュラス
 ラテン語の「rana(蛙)」が語源。もともとこの仲間は蛙がたくさんいるようなところに生えることから。花びらは薄く積み重なって、今にも崩れ落ちそうなところがうつくしい。
 
*シャクヤク

Paeonia(パエオニア、ペオニア)は、ギリシャ神話の”医の神”「Paeon」の名に由来する。Paeonはオリンポス山から取ってきたシャクヤクの根によって、黄泉(よみ)の国王「プルートー」の傷を治したとされる。シャクヤクは死者の国の王の病も治すほどの万能薬。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」

*スイセン
 花のうちに王冠を持つナルシスの花。甘い香りがいち早く春を言祝ぐ。水仙は仙境の花。「仙人は天にあるを 天仙、地にあるを地仙、水にあるを水仙」という。

*アイリス
 アイリスは虹の女神の名。文目も彩なる文様をいう。紫の花びらの奥に、虹色の瞳をもつこの花は鋭い剣も携えている。

*ユリ
 「ゆり」とは風に揺れる様子からつけられた名だという。漱石の『夢十夜』の第一夜で、おんなは百年後に香しい白い百合として生まれ変わる。


*ハイドランジア

学名”Hydrangea”は「水の器」。「あじさい」は古代には「アズサイ」と呼ばれ、アズ(集まる)サイ(真藍)のことだった。「七変化」の名も持つこの花に「移り気」の恨みを乗せたり、反対にどんどん華やかな舞台に登りつめていくことを褒め讃える歌などもある。

*シンビジウム
シンビジウムの名は「舟のかたち」というギリシア語がもと。蘭は最も遅く地上に出現した被子植物とされ、虫媒花として効率のよい花のかたちをしている。そういえば、花弁も芳香も少し植物らしくない肉感を持っている。
 




未来へ受け継げる「型」の切り出し方、切り取り方、その萌芽を記して行きます。かたちを成していないけど、大事にして行きたいと願うことなど。