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夢十夜 銀色にゆれるはな 夢の中で鏡をみたこと

10歳の頃、夏目漱石の『夢十夜』を読んで、
ぼくは小説を書き始めた。
あの時の救われた感じは忘れない。

たくさんの辛いことがありすぎた。よく生きてきたな、と今でも思う。
生きることを諦めなかった。

『夢十夜』から10年、『夢十夜』が結んだ奇跡のような出会いから1ヶ月、
このオルタナティブな空間で対話と朗読をした。
朗読は初めてだけど、多分大丈夫。
生けられていく花を見ながら、ゆっくり声にしよう。

第一夜

 こんな夢を見た。
 腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然云った。自分も確にこれは死ぬなと思った。そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込むようにして聞いて見た。死にますとも、と云いながら、女はぱっちりと眼を開けた。大きな潤おいのある眼で、長い睫に包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸の奥に、自分の姿が鮮かに浮かんでいる。
 自分は透き徹るほど深く見えるこの黒眼の色沢を眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、ねんごろに枕の傍へ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまた聞き返した。すると女は黒い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、仕方がないわと云った。
 じゃ、私の顔が見えるかいと一心に聞くと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。自分は黙って、顔を枕から離した。腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
 しばらくして、女がまたこう云った。
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標(はかじるし)に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」
 自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。
「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、――あなた、待っていられますか」
 自分は黙って首肯(うなず)いた。女は静かな調子を一段張り上げて、
「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。
「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」
 自分はただ待っていると答えた。すると、黒い眸のなかに鮮かに見えた自分の姿が、ぼうっと崩れて来た。静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱちりと閉じた。長い睫の間から涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた。
 自分はそれから庭へ下りて、真珠貝で穴を掘った。真珠貝は大きな滑らかな縁の鋭い貝であった。土をすくうたびに、貝の裏に月の光が差してきらきらした。湿った土の匂もした。穴はしばらくして掘れた。女をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。掛けるたびに真珠貝の裏に月の光が差した。
 それから星の破片(かけ)の落ちたのを拾って来て、かろく土の上へ乗せた。星の破片は丸かった。長い間大空を落ちている間に、角が取れて滑らかになったんだろうと思った。抱き上げて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し暖くなった。
 自分は苔の上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組をして、丸い墓石を眺めていた。そのうちに、女の云った通り日が東から出た。大きな赤い日であった。それがまた女の云った通り、やがて西へ落ちた。赤いまんまでのっと落ちて行った。一つと自分は勘定した。
 しばらくするとまた唐紅の天道がのそりと上って来た。そうして黙って沈んでしまった。二つとまた勘定した。
 自分はこう云う風に一つ二つと勘定して行くうちに、赤い日をいくつ見たか分らない。勘定しても、勘定しても、しつくせないほど赤い日が頭の上を通り越して行った。それでも百年がまだ来ない。しまいには、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女に欺されたのではなかろうかと思い出した。
 すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺らぐ茎の頂に、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと弁(はなびら)を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹(こた)えるほど匂った。そこへ遥(はるか)の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴たる、白い花弁(はなびら)に接吻した。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。


時々活けられていく花を見て、
言葉を花の間に活けていった。
あやとりをしているようだ。
そうして
読んでいるうち、
吊られたガラスの花瓶に生けられた花がゆっくりぼくの方へ回ってきて、
それがちょうど物語では、「自分」が百合の花へ接吻するときだった。
活け花はもっと固いものだと思っていたぼくは、このとき活け花を体感できた。
ということはぼくの中の何かが目覚めた。

そして、幼い頃の記憶。
祖先をたどって岡山へ旅したとき、
白い猫がお墓へ誘ってくれたことをにわかに
思い出した。
あの白い猫は、漱石の真っ白な百合で、そして今日生けられた銀色の枝でもあったんだな。

銀色の色艶を持つ、抑えめなトーンの活け花。
宙に浮かんで、漂う花は、
気がつくと空に浮かんでいた暁の星のごとく。
余韻の中でゆっくりまわっている。

110年後の『夢十夜』
受け継がれていく物語は、それぞれの中に小さな星となって輝き続け、
タイミングが合えば共振する。

ああ、今日は来てくださった方々に、
何か小さくてもいいからそれぞれにギフトを届けたかった。

会の後、花の下で小さく輪を作って、みなさんと話した。
中学生、高校生も来てくれて嬉しかった。

ぼくは何か渡せたと思う。
それが証拠にぼくがたくさん贈り物をもらったから。


     TERRAIN VAGUE 「夢で鏡をみたこと」


大粒の泪が

小さな緑の部屋で、歌声の満ちる中、次々と花が生けられていった。

その花は、色合いといい、スケールといい、
3年前に突然わたしのそばから遠くへ行ってしまった
叔母の生ける花そのものだった。

わたしは叔母と切り盛りしていた花屋が大好きで大好きで、
あまりにも楽しかったから、
彼女の突然の不在から立ち直れないままだった。
辛くて花も見ないようにしてきた。

今日ここへ来たのは、叔母の導きがあったとしか思えない。
生けられていく枝ものや薄の銀色の穂や、紅葉したヒペリカムや、
菊やカラーの色を見ていて、
叔母を思い出した。
鋏の音も懐かしすぎた。
きつく目を閉じて、上を向いて、
泪が零れないようにするのに精一杯だった。

もう封印しないで、あなたも大好きな
花を生けなさい。

終わってから、お花の人にそう伝えなくちゃと思って
うまく話せるかわからないけど思い切って話したら、
泪が堰を切って溢れて、、、
でも、もう我慢しなくていいのだ。

嬉しい懐かしさの中で私を思い出して、
叔母はそう言っている。

花をいければそこに大好きな叔母が現れる。
きっと勇気をくれる。

花は糸電話。
そばだてる黄泉の耳。
そして鏡。笑顔が揺れる。
あちらとこちらをつないでくれる。

もうわたしは立とうって、
決めたから。
心配しないで、時々泣くかもしれないけど。
その時は
前と同じように困った子ね、って笑いながら叱ってね。

2017/9/27 TERRAIN VAGUE

赤坂氷川神社藍の生葉染め2017

赤坂氷川神社境内で藍を育て始めて5、6年経つ。今年は肥料食いの藍に牛糞を与え、順調に大きくなった。最初の鍬入れで腰をやってしまったので、ほぼ権禰宜の二人に任せる感じだった。
人気があって今年はダブルヘッダー。
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みなさんにカットのコツを教え、一人5、6本ずつ切ってもらい、葉を千切る。茎は発根するので持ち帰ってもらう。
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葉をジュースにする。濾して染液を作る。絞る時の感覚を味わってほしい。大切なものを頂くことだ。
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試しにシルクのリボンを染めてみた。さっと淡い緑が青になっていく様子を実況する。
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この後「青」や「藍」についての講義。

ささやかなノスタルジー/終わりの余韻/終わらない物語

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珈琲を飲み干したら、
楽土が夢のように現れた。
京の春。
雅が憧れた鄙び。
夢かうつつか。
臍の緒でわずかにかすかにつながり
震えるanother world.

TERRAIN VAGUE vol.53「冬の怪談 雪と氷に閉ざされて」東雅夫さん

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企画しているTERRAIN VAGUEは「都市の空き地」と訳している。神保町のあの場所が、知が結ばれ、空想がときはなたれ、縁が繋がり広がっていく場となればいいな、と思っている。

東さんとはいつも「緑蔭幻想詞華集」をやらせていただいているが、今回のTERRAIN VAGUE枠での振りに対して、「空き地」に反応してくれた。
そもそも彼らの世代的には「空き地」とは「原っぱ」という原風景があるようだ。

原っぱは色々なごっこ遊びをしたり、生き物を追いかけたり、野球やサッカーや、とにかく身体を使って、無我夢中になるところだろう。その分、特に夕辺の人気のない原っぱは、昼間のまぼろしが残響していて、何かしらロマンチックな、悲喜こもごもの感情にもなる。懐かしさや、傷みにも似た感傷に包まれてしまう。星のような物語の断片が去来する、そんな場所でもある。

さっきまで一番明るかった場所が、もっとも暗い場所になる。

原っぱ、そこは荒川修作のいうBLANKでもある。
そんなところから、物語は生まれるのだろう。空虚さは、余白であり、私たちの視覚はその茫洋とした風景にピントが合わず、何かしらはるけきものの語りへ吸い寄せられていく。
大都会は、風通しのいい原っぱがとても少なくて、土地は誰かのものであり、原っぱがあったとしてもそこへ入ることは許されていない。


都市で建築が積層され高層化されるほどに、新たな隙間は生まれている。それは原っぱではないかもしれないけれど、埋めれば埋めるほど、見えない空虚は生まれる。
そこで物語は生まれるだろう。でも、出口がない空間では、大きな翼を持った物語の主人公は羽搏きにくい。賓たちも小さく、ますます見えにくい。TERRAIN VAGUEは、そんな空き地を顕在化させ、その奥を広げ、都市を逸脱し、新たな物語を生む闇と光のあわいであってほしい。

そういえば、お正月で本棚の整理をした時、岩田慶治さんの「木は人となり人は木になる」をめくったら、冒頭にそんな空虚な場所についての面白いエピソードがあった。あれは賓だろう。

北へ南へ

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北海道道南日本海と沖縄久高島太平洋 海でつながっている。

子供達は未来のように笑う の後で。

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たそがれ/二つの光

月は草を離れ
風は林で眠りにつく

たそがれ 二つの光

鳥は帰り
獣は目覚める

たそがれ 二つの光
きみはだれ
たそがれ 二つの世界
そこはどこ

きっと其れはおしろいばなの
ピンクの群がりに
宵の草むら覆う
カラスウリの浮かぶ白に

夕闇
葉叢むらさき
蛍光に光るはな 光るはな

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月は草を離れ
風は林で眠りにつく
旅立ち/休み

夕闇
鳥はむら さき
獣はあい いろ

目を閉じ/目を啓き

欠伸をしたら
眠るの/起きるの

きっと其れはカンナの
黄色い花びらに
錆びたフェンスと洗いざらしの
アスファルトに

きっと其れは合歓のはな
眠りの葉うらに
待宵草のうす黄色
優しい蛾を誘い出す

たそがれ
トワイライト二つの光
緑の光線
その袖に触れている

ブーケを組む

植物の仕事は、思いをつなぐこと。
人から人へ、手渡される花束はその一番シンプルなかたち。

いつもその瞬間にドキドキしながら花を組ませてもらう。
渡す人、受け取る人を知っていれば、二人の面影がどこかに映っている。

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7月5日 キャットストリート 雨雲の先っちょ と 立っているところ

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